正義の見方・01 

月光仮面は、正義そのものではない


近頃とんと見かけなくなった言葉のひとつに、
「正義の味方」というのがあります。

マンガ「ONE PIECE(ワンピース)」では、
海軍の幹部たちが、その制服コートの背中に「正義」の文字を掲げています。
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海軍は、海賊である主人公ルフィにとっては、取り締まる敵側。
しかし敵だからといって、悪の組織というわけではありません。
海軍がみんな悪いというようなオキマリな描かれ方もされません。
ルフィの祖父や、友だちの少年は、海軍に在籍して活躍中。
いいやつも、いっぱいいます。

人々の生活を守るためには、正義を為させばならないとして、
自分の命を張ってでも正義を貫こうとする海軍の主張が描かれたりもします。

一方、「正義を守るため」に、人の自由を奪い、人間性を踏みにじり、
「正義を守るため」に、殺人どころか、大量殺戮を行ったりもする。
そんな非道を行う場所が、
海軍本部の「正義の門」であるというような皮肉が描かれたりします。


力こそがすべてという海賊のひとりは言います。

「海賊が悪? 海軍が正義?
そんなものはいくらでも塗り替えられて来た…!」
「頂点に立つ者が善悪を塗り替える。」
「正義は勝つって? そりゃそうだろ。勝者だけが正義だ!」
(1)

勝てば官軍。負ければ賊軍。
勝利さえすれば、それが正当化されて正義となる現実も描かれます。

「ワンピース」の中で描かれるこうした正義についての様々な「見方」は、
今という時代の「正義」観を反映していると思われます。

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そもそも、「正義」の「正」という漢字。

古代中国で生まれたこの文字は、
「一」と「止」で成り立っています。
「一」は、もともと「囗」で、
四角い城壁に囲まれた邑(まち)のこと。
「止」は足跡をかたどったもので、進むことを意味します。
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壁に囲まれた集落に向かって人が足を踏み込み、攻め進む。
つまり戦争を仕掛けて侵略することが、「正」という漢字なのです。

そして戦いに勝利し、征服することになった集落の人々から、
税を取り立てるそのやり方を「政」といい、
政(まつりごと=政治)の意味となる。

そうした行為は正当であるというのが、
つまり、「正義(正しいすじみち。正しい道理)」。
そこから「正しい」という意味が生まれます。

が、やがて「正しい」という意味で使われているうちに、
本来の「侵略して征服する」という意味が忘れられたため、
征服という意味を表すには、改めて「彳」(ぎょうにんべん)をつけて
「征」という文字が使われるようになったということです。(2)(3)

戦争に勝って征服さえすれば、どんなに税金をしぼり取っても、それは正しい。
それが古代中国の「正義」でした。

まさに、「勝者だけが正義」。
その理(ことわり)は、人間社会の営みの現実として、
現代でもあまり変わらないのではないでしょうか。

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正義は相対的。
こうした「正義」観は、今、マンガやアニメやいろんな作品に描かれています。

その傾向が特に顕著になったのは、やはり2001年の9.11以降でしょう。
アメリカ同時多発テロの衝撃は世界を揺るがしました。

テロという暴力に非があるのはもちろんですが、
しかしこの事件とその後の動きをきっかけに、
テロリスト側にはテロリスト側の「正義」があること、
アメリカ側にはアメリカ側の「正義」があること。
“世界の警察”を任ずる米国の「正義」も絶対的ではないことが
浮かびあがってきた気がします。

その半年後につくられた2002年の仮面ライダー・シリーズ
「仮面ライダー龍騎」では、
それぞれ異なる生き方を持ったライダーが、13人登場。
ライダー同士が殺し合い、
最後に生き残った一人の願いが叶えられるというルールのもと、
「バトルロワイヤル」が繰り広げられます。

そんな中、いろいろな問題が問われました。
──自分の野望のため、自分の幸福のためには、他人をないがしろにしていいのか?
──多くを救うためには、一人を犠牲にするべきなのか?
──愛する者を守りたい。が、そのためには他人を顧みないでいいのか?

これらは、ベストセラーとなった
マイケル・サンデル「これからの『正義』の話をしよう」(4)
取り上げられている問題といってもおかしくないかもしれませんね。

主人公の仮面ライダー龍騎は、
「戦いは止めるべきだ」と不戦を主張し、
けれど、そのためには戦わなければならないというジレンマの中、
最終回を待たずして息を引き取ります。
最期まで不戦を主張した彼の意志は、他のライダーに引き継がれるのですが。

13人の中には、暴力衝動のままに戦う仮面ライダー、
不正悪事を行う仮面ライダーもいました。
仮面ライダーの「正義」も、絶対ではない。

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昔のヒーローはみんな、「正義の味方」だったような印象があります。
筆者も子どもの頃、仮面ライダーは「正義の味方」だと思って育った世代です。

いつの世にもヒーローがいて、子どもたちはあこがれます。
その物語を、まるで養分にするかのように自分の中にとりいれて育つものです。
しかし今、時代が変わっている。
正義の“見”方が変わっている。

こうした傾向は、子どもたちに影響を与えるのでしょうか。
与えるとしたら、どんな影響を与えるのでしょうか。

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「正義」をテーマに戦ったヒーローたち。
「正義を守る」とか、「正義のため」とか、表現はいろいろですが、
「正義に味方をする」
というのは、言い得て妙です。

この「正義の味方」という言葉は、ウィキペディアによると、
実写ドラマ「月光仮面」の主題歌(作詞・川内康範)で初めて使われたと書かれています。

なるほど、その川内康範さん(原作・脚本も手がけた)は
インタビューにこう答えています。

「アメリカの『スーパーマン』がありましたよね。
これが大変人気だった。
超人的な力を持って弱者を助ける。
その点においては月光仮面と一致するんです。
でもそれ以外では別物なんだ。
人間の限界の中で正義の味方でなければいかん、
俺はそう思ったんだ。
だから月光仮面の実体は人間でなくちゃいけない」

「月光仮面は月光菩薩に由来しているんだけれど、
月光菩薩は本来、脇仏なんだよね。
脇役で人を助ける。
月光仮面もけっして主役じゃない。裏方なんだな。
だから『正義の味方』なんだよ。けっして正義そのものではない。
この世に真の正義があるとすれば、それは神や仏だよな。
月光仮面は神でも仏でもない、まさに人間なんだよ」
(5)

絶対的な正義はない。
ましてや自分自身が正義のような顔をして力を駆使することは
はたして正しいのだろうかという問いがあります。
完全ではないひとりの人間として、それでも
正義の側に味方をすることでよりよい社会を築こうとする。
それが月光仮面なんですね。

川内康範さんは若い頃、暴力が支配する不条理な労働現場や、
陰湿ないじめの横行する軍隊を体験したそうです。
そして、戦争の悲惨さを体験する。
戦争では、アジアの平和を守らなければならぬという
日本の「正義」は絶対でした。
それが敗戦によって崩壊する。
そうした絶対的な「正義」への疑問もあったでしょう。

戦後13年を経た1958年(昭和33年)当時、
すでに戦争のいたみを知らない世代の子どもたちも増え、
何が正義で、何が悪かの基準があいまいになっていたといいます。
絶対的な正義はないとしても、正義のためには力になりたい。
そこで、正義に味方をする月光仮面の誕生ということになったのだそうです。

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あれ? 
「正義の味方」って、「黄金バット」でも使われていなかったっけ?
街頭紙芝居の「黄金バット」は、月光仮面が生まれるずっと前に誕生していたはず……。
と思って、故・森下正雄さんの遺された録音を確かめたら、
やっぱり使っておられました。
「正義の味方、黄金バット!」と高らかな名調子で語っている(6)

そもそも「黄金バット」(戦後に作られたもの。戦前のものは焼失しています)の
裏書きの脚本に「正義の味方」と書かれています(7)

また、1930年(昭和5年)の「黄金バット」誕生当時のいきさつを
加太こうじさんが描写したくだりを読んでも、
「突如としてあらわれた正義の味方、黄金バット。ウハハハハ」
と、初めて登場したときの台詞が書かれています(8)

これは、1930年の紙芝居でも使われていた伝統的な言葉だったのでしょうか?
それとも、ウィキペディアの通り、
「月光仮面」のときに発明された言葉だったのでしょうか?
だとすれば、「月光仮面」放映の1958年以降、世間に出回ったこの言葉を、
紙芝居の作者加太こうじさんや、あるいは演じ手たちが取り入れて
後付けしたということになりますね。

今のところ、筆者にはちょっとわかりません。

ただ、いずれにしろ「正義の味方」という言葉は、
ヒーローのキャッチフレーズとなりました。
そこに川内康範さんが込めた真意が伝わっているかどうかはともかく、
広く世間に浸透していきました。

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《引用・参考文献》
(1)尾田栄一郎「ワンピース」五十六巻・集英社
(2)阿辻哲次「漢字の字源」講談社現代新書
(3)白川静「常用字解」平凡社
(4)マイケル・サンデル、鬼澤忍訳「これからの『正義』の話をしよう 〜いまを生き延びるための哲学」早川書房
(5)竹熊健太郎「篦棒(ベラボー)な人々ー戦後サブカルチャー偉人伝」河出文庫
(6)森下正雄「黄金バット(怪タンク出現/怪獣編)」~CD「日本の大道芸ー紙芝居のすべて」キングレコード・所収
(7)加太こうじ作・画「黄金バット(ナゾー編)」~アサヒグラフ別冊「戦中戦後・紙芝居集成」朝日新聞社・所収
(8)加太こうじ「紙芝居昭和史」立風書房
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by kamishibaiya | 2012-02-19 06:37 | 子どもたちのこと | Comments(0)

「ポレポレ」は、スワヒリ語で「のんびり、ゆっくり」という意味です。紙芝居屋のそんな日々。


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