小林玲子さんの「涅槃図」の絵解き・1

絵解きが始まる


先日の1月15日、「絵解き」を拝観するチャンスがありました。

東京のJR青梅駅を降りると、近くにあの赤塚不二夫会館があります。
が、今回はそちら方向ではなく、歩いて5分、青梅市立美術館へ。
多摩川を望むその美術館の道路をはさんで向かい側にあるのが、常保寺。
臨済宗の禅寺です。
こちらのお寺に、ブッダが息をひきとる様子を描いた「大涅槃図」があります。

18世紀頃の作だそうで、幅は2m近く、高さ3mを越える大作。
毎年、「涅槃会(ねはんえ=ブッダの入滅の日に行われる法要。旧暦2月15日とされる)」
にちなんで、1月15日〜2月15日の限定期間に公開されているそうです。
(※この絵は、常保寺HPでも見ることができます。)

その公開の日であり、小正月にあたる1月15日には、
例年、お参りに来られる方も多いのだとか。
それが今年は、長野・善光寺を中心に、全国で絵解き口演をして活躍されている小林玲子さん、
そして長野郷土史研究会会長をされている小林一郎さんのご夫婦を招いて
絵解きをすることになったのだそうです。
(※小林玲子さんのブログはこちら。)
(※小林一郎さんのブログはこちら。)

本堂に掲げられた「大涅槃図」。
f0223055_14334180.jpg


ここへ、檀家の方々をはじめとする7〜80名が集まりました。
ご住職の挨拶に続き、小林一郎さんのお話。
筆者も含めて、絵解きを見たことがないという人が大半なので、
その絵解きの解説に興味津々。
そうして、小林玲子さんの実演が始まりました。
f0223055_16152457.jpg


この写真では見にくいのですが、小林玲子さんは羽根のついた棒を持っています。
いわば、指し棒(指示棒)のようなもの。
学校の先生が、図を説明するときや、
強調したい文字を伝えようとするとき、
黒板をトントンと叩いたり、指し示したりするアレです。
あの指し棒と同じように、それで絵を指し示します。

「絵解き」が日本に伝わって、寺院などで行われていた平安時代にも、
やはり棒を使っていたそうです。
その当時は「楚(しもと)」という棒を使っていた。
「しもと」は「細枝」とも書き、木の枝の細長く伸びた棒のこと。
これは、刑罰の一つとして罪人をたたく笞(ムチ)としても使われたそうで、
だから「笞(しもと)」とも書きます。

そういえば、昔の先生が使っていた「教鞭」も、
黒板を指す役目と、イタズラっ子を罰する鞭(ムチ)の役目の
両方のはたらきがあったそうですね。

細い木枝くらいだったら、少々たたかれても
往年のガキ大将ならへいちゃらかもしれませんが、
紙の絵だと傷つくことがある。
軽くなぞるだけであっても、何度も繰り返されれば、傷みます。
長野・善光寺の掛け軸絵には、
「絵解き」のたびに同じところを何度も触れるため、
白くなった箇所があるものもあるそうです。

そこで、棒の先に羽根をつけておくと、絵を傷めないというわけです。

「絵解き」は、平安も末期以降になると寺社を飛び出し、
往来の道端やふつうの民家で行ったりするようになり、
エンターテイメント性が高くなってきます。
その頃の「絵解き」でも、羽根のついた棒を使っていました。

下の絵は、室町後期の「三十二番職人歌合絵巻」に描かれた「絵解」の姿。
伴奏のための琵琶を膝に置き、折り畳んだ絵を箱から取り出し、
羽根のついた棒を持っています。
(これには、絵を指し示すとともに、
画面のほこりをはらう目的もあったといいます。)
f0223055_1794435.jpg


詞書きに「雉(きじ)の尾のさしてをしえずとも」とある通り、
雉の尾羽を使っていたようです(1)

「一休さん」で知られる一休宗純の著作「自戒集」(1455年)には、
当時の「画説(えと)き(=絵解き)」に触れている叙述があって、
そこでは、この棒が「鳥箒(とりぼうき)」と呼ばれています(2)

一方、15世紀頃から、「絵解き」をしながら勧進して歩く
熊野比丘尼という女性たちが全国を廻り歩くようになります。
彼女たちもやはり、雉(きじ)の羽根のついた棒を持ち、
それを「おはねざし」と呼んでいました。

小林玲子さんもそれに倣ってか、
やはり雉の尾羽のついた棒を使い、
「おはねざし」と呼んでおられました。

下のポスターは、熊野比丘尼に扮した女性が
絵解きのサービスをするという観光企画のためのものですが、
この女性が手にしているのが「おはねざし」です。
f0223055_18355826.jpg



さて、その「おはねざし」で、「大涅槃図」の絵を指し示しつつ、
小林玲子さんの「絵解き」が語られ始めたのでした。

f0223055_17371699.gif




《引用・参考文献》
(1)「三十二番歌合」〜谷川健一編「日本庶民生活史料集成・第30巻・諸職風俗図絵」三一書房
(2)石井恭二訓読・現代文訳・解読「一休和尚大全 上・下」河出書房新社





[PR]
by kamishibaiya | 2012-02-03 07:18 | 絵を見せて語るメディア | Comments(0)

「ポレポレ」は、スワヒリ語で「のんびり、ゆっくり」という意味です。紙芝居屋のそんな日々。


by kamishibaiya