絵を見せて語るいろいろ・01

 冊子[源氏物語絵巻]


「源氏物語」、そしてそれを映像化して絵巻にした「源氏物語絵巻」に、
絵本の原形とも思われる冊子形式のメディアが登場します。
「東屋(あずまや)」(一)の場面。

「源氏物語」を彩るヒロインのひとりである浮舟(うきふね)は、
身分は高くないものの、裕福な家の娘。
が、母親は子連れで再婚したので、父親の実子ではありませんでした。
財産目当てで彼女と婚約した男は、その事実を知って、
父親の実子である彼女の妹と結婚してしまいます。
不憫に思った母親は、浮舟を、
彼女の異母姉である宇治の中君(なかのきみ)のもとへ預けます。

ところが、中君の夫である匂宮(におうのみや)には浮気癖があり、
偶然、彼女を見つけて強引に迫る。

この後、浮舟は、
この匂宮と、そして「源氏物語」後半の主人公・薫との板挟みになり、
自殺へ追い込まれることになります。

が、この「東屋」の場面の時には、事なきを得ます。
しかし、男性経験のない浮舟にはショックでした。
そんな妹に気をつかって、慰めるために中君が用意してすすめたのが、
絵物語の冊子です。

中君が、
「絵など取出させ給ひて、右近に、詞(ことば)読ませて」(1)
──というくだり。

「右近」は、浮舟に仕える侍女(女房)です。

中君は、浮舟といっしょに絵を見ます。
恥ずかしげに物怖(ものお)じしていた浮舟は、やがて物語に夢中になったのでしょう、
いつのまにか前に乗り出して絵に見入っている。
そんな異母妹の美しい横顔をながめて、中君は感慨にふけります(2)

このシーンを「絵巻」では、姉妹二人ではなく、
浮舟ひとりで絵を見るという構成で描いています。
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絵の冊子に見入っている浮舟()。
その手前で、詞書(ことばがき)の冊子を朗読しているのが、右近です()。
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つまり、絵が描かれている冊子と、
文章が書かれている冊子という、2冊に分かれた1組の絵本。

たいていは高貴な人のために、侍女(女房)などが文章を読み聞かせる。
その読み聞かせに合わせて、ページをめくって絵をながめていくというわけです。

「絵巻」の他に、こうした仕組みのメディアが、
平安の当時、貴族社会の中にあったことがわかります。

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《引用・参考文献》
(1)紫式部、石田穣二・清水好子校注「源氏物語」〜「新潮日本古典集成」新潮社
(2)紫式部、与謝野晶子訳「源氏物語」〜「日本国民文学全集4」河出書房新社
   佐野みどり「じっくり見たい『源氏物語絵巻』」小学館
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by kamishibaiya | 2012-05-07 06:57 | 絵を見せて語るメディア | Comments(0)

「ポレポレ」は、スワヒリ語で「のんびり、ゆっくり」という意味です。紙芝居屋のそんな日々。


by kamishibaiya