パピー・ウォーカー 〜子犬とともに歩く人〜

いやあー、「パピー・ウォーカー」って、初めて知りました。

将来、盲導犬になろうという子犬たちを、
まだ生まれて間もない2ヶ月の頃から約10ヶ月のあいだ、
ふつうの家庭で預かって育てるというボランティアのことなんだそうです。

ワンコたちもこれからプロを目指すんだったら、
それこそ“早期英才教育”を施して、幼児のうちから専門訓練を積めばばいい、
訓練を始める時期が早ければ早いほど、いい盲導犬に育つのではないか……と思うと、
それが違うんだそうですね。

まずふつうの生活の中で、人間とふれあい、ふつうに暮らす。
その中で、ふつうの生活環境に慣れたり、
また、人間との愛情とか、信頼とか、そういう関係を学んでいく。
その土台がしっかりしていないと、
いくらその後で訓練を積み重ねてもうまくいかないのだとか。

けれど、ふつうの生活というその「ふつう」っていうのがきっと難しい。

中にはかなり激しいやんちゃな子もいて、
家具や家の壁をガリガリかじったり、夜中に鳴いたり、
いろんなところに粗相をしたりもする。
しかしそんな彼らに、腹立ちの感情にまかせての叱責はNGなんだそうです。

かといって、いいわいいわで甘やかすのも大きなNG。
やりたい放題を容認するということは、子犬にしてみれば、
自分は人間よりも群れの中の上位である、というメッセージを受け取ることになる。
そうなると、自分が群れのリーダーの責任を負わなければいけなくなり、
下位である人間を率いるために、威嚇してうなったり、かみつくようになったりする。

何をしていいか、何をしてはいけないのか、
その「Yes」と「No」をきちんと伝えなければいけない。
叱責するにも、ただ感情にまかせて怒るのではなく、
これは「No」なのだと、きちんと叱らなければいけない。
躾けひとつ教えるにしても、「ふつう」に飼うということは、これはタイヘンな仕事だと思います。

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そんなとき、たとえば「アタッチメント」ということをするんだそうです。
これは、パピー・ウォーカーに限らず、
一般に犬をしつけるときの基本的な訓練法。

いわゆる「スキン・シップ」とも言えるでしょうか。
犬を後ろから抱きかかえて座らせ、
おなかや手足の先っぽ、耳や鼻先などを触って撫でてあげる。

よく犬や猫が、飼い主の前でころんと寝転び、おなかを見せるのは、
気を許したしるしだと言いますよね。
攻撃されたら致命傷ともなりかねない、弱点の「腹」をさらすというのは、
相手を上位と認め、信頼するという意味を持つのだとか。

そもそも、犬は下位のものに後ろを取られることを嫌がるそうで、
だから人間に後ろから抱きかかえられるのは、人間を上位と認めることでもある。
その上、急所のおなかや、神経の敏感な手足の先や鼻先を撫でまわされるというのは、
よほどの信頼感がないと出来ません。
しかし、相手が心から信頼している存在で、その彼(彼女)に身を委ねるとしたら、
これは心地よい愛撫ともなるでしょう。

「アタッチメント(attachment)」という言葉は、「付属品」という意味でも使われる通り、
「くっつくこと」というのがもともとの意味です。
この言葉を心理学者・ボウルビィは、
とくに幼児期の人間が、母親や周りの人々にくっつきたいと思う気持ちとして用いました(1)
だから日本語では、「愛着」と訳されることが多いのですが、
「愛情」といってもいいと思います。

人間と犬がくっつきあうこの「アタッチメント」という訓練法も、
ただ単に「支配ー服従」の関係性を強いるために行われるのではなく、
やっぱり「愛情」というやつが必要なんでしょうね。
互いの「愛情」を育てるためのスキン・シップでもあるかもしれません。

そんな「愛情」をもってパピー・ウォーカーさんたちは、
しつけひとつ、叱り方ひとつにも苦労しながら、子犬を育てておられるのでしょう。
その苦労が楽しさであったりするのかもしれない。

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「パピー・ウォーカー(Puppy Walker)」って、
パピー(子犬)を歩かせる人──つまり“子犬を散歩させる人”という意味なのかもしれません。

しかしもしかしたら、
育てる側も、育てられる側も、互いにくっつき合いながら、
互いにいろいろ学び合いながら、
日々を子犬といっしょに“歩いていく”という意味でもあるかもしれないと思いました。

犬の子育てと人間の子育てとを、もちろん一緒くたにすることは出来ませんが、
わたしたちが人間の子どもたちと対するときにも、
なかなかに示唆に富む話だよなあと、いやあー、思わず感心してしまったのでした。







《参考文献》
(1)J・ボウルビィ、黒田実郎・大羽蓁・岡田洋子訳「母子関係の理論(原題:Attachment and Loss)」岩崎学術出版社
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by kamishibaiya | 2012-07-10 20:28 | 子どもたちのこと | Comments(0)