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2. 輪郭を、くっきり。

画面から離れて遠くからながめるとき、
何が描かれているか見えにくいという理由のひとつは、
輪郭がぼやけて、かたちがわかりにくいということでしょう。
輪郭がぼんやりしないよう、くっきり、鮮明に描くことで
遠くから見てもわかりやすくなる。
つまり、遠目をきかせることになります。

そのための効果的な手段としてまず思い浮かぶのは、
黒や濃い色、あるいは目立つ色を使った“輪郭線”を入れることです。

もののかたちを輪郭線によって表すことは、
ラスコーの壁画に腕をふるった旧石器時代の人々の頃からの定番です。
幼い子どもたちでも、何かもののかたちを描こうとするとき、
まず紙に描き入れるのは輪郭線ですね。
輪郭線を描くことは、原初的な、何かしら本能的な表現なのかもしれません。

いわば、クロッキー。
いわば、マンガ。
かたちを光の粒子や色でとらえようとしたり、
面や塊(かたまり)でとらえようとする印象派やキュビスムの画家たちの技は、
ちと難しかったりする。
かたちを輪郭線でとらえるやり方は、お手軽でもあります。

水墨画でいうと、線だけで描く「白描法」とか、
輪郭線を描いてその内側を塗る「鉤勒(こうろく)法」とかいわれる技法。

たとえば、下の絵は、色をベタ塗りしたものだから、輪郭の境目は明確です。
けれど、背景が類似色なので、輪郭がとらえにくく、遠目で見るとわかりにくい。

▼図01
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そこに輪郭線を入れると、輪郭がくっきりとして、遠目で見てもかたちがわかりやすくなります。

▼図02
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黒い輪郭線をはっきりと描いてわかりやすいといえば、
全般的にマンガがそうです。

版画や切り絵やステンドグラスなどは、
基本的に黒い輪郭線を使って表現をする画法と言えるでしょうか。

元ステンドグラス職人であったジョルジュ・ルオーや、
装飾性の高いアルフォンス・ミュシャなどなど、
輪郭線を強調した絵画やイラストも多々あります。

絵本でも、ミッフィーのシリーズで知られるディック・ブルーナなどは
黒く、極太の輪郭線が特徴的です。
骨太の輪郭線といえば、
和歌山静子さん(作品に「あいうえおうさま」(1)、紙芝居「はいはいあーん」(2)など)の
絵でもおなじみですね。

ただ、こうした描き方も、単に輪郭線を入れればいい、
単に輪郭線を太くすればはっきりするというものではなく、
描きすぎたりするとゴチャゴチャして、遠目で見ると逆にわかりにくくなる。
また、シンプルな線であればあるほど、
その選び方、かたちや動きの表し方が大切になってくるのでしょう。
デザイン的なセンスが求められるのだと思います。

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ところで、手作り紙芝居の絵を描く場合には、
どんな画材で描くかということも、ひとつのポイントになります。
遠目で見てわかりやすく、くっきりと描けるのは、
 ポスターカラー、 リキテックス絵具、カラーインク、ペンキ、泥絵具
などといえるでしょうか。

水彩絵具の場合だと、不透明水彩の方が、はっきりしますよね。

油彩絵具版画切り絵なども、くっきりと描けそうですが、
用紙や手間の問題など、手作り紙芝居にする場合は大変そうです。
が、大変そうだけどおもしろいかもしれません。

輪郭線など、部分的に使うとしたら、
 マジックインキ、フェルトペン、墨、クレヨン
なども有効でしょう。

反対に、全画面が色鉛筆だけだと、どんなに美しくはあっても、
薄くぼおーっとして、遠目がききにくくなります。
パステルクレヨン、また、水彩絵具でも透明水彩だと、
描き方によっては、ぼんやりしがちです。

こうした画材を使うプロの画家の方たちは描き方を工夫しているのだと思います。
──たとえば
鈴木幸枝さん(作品に「すてきなバスケット」(3)、紙芝居「ペンギンのタウタウ」(4)など)は、
紙芝居の作品でもパステルを使って描かれたりしています。
輪郭線を多少描くことはあっても、輪郭線を強調する画風ではありません。
しかし、パステルのソフトさを生かしながら、
その上で構図や空間のとり方など、いかに遠目をきかせるかを計算されているため、
非常に見やすい画面となっています。

下の絵は、試しに色鉛筆調で描いてみたんですが(ホントはCGソフト)、
なんだかボケボケです。
パソコン画面で見ると、ああ、ブタのような生物だとわかると思うんですが、
2メートル以上も離れた遠目だとわかりにくくなる。

▼図03
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しかし、こうした画材で描いても、
輪郭線をくっきりと描けば、わりあいだいじょうぶかもしれません。
くっきりした輪郭線を入れると、遠目でもわかりやすくなってくると思います。

▼図04
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さてしかし、必ずしも輪郭「線」に頼らなくても、
輪郭がくっきりとしていれば、遠目がきくわけです。
たとえば、輪郭線なしでも、かげをつけ立体感を出すことで、
ちょっとばかり輪郭がくっきりと見えやすくなります。

▼図05
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また、輪郭線なしでも、背景の色が違えば、くっきりとしてきます。
単純なことですが、このやり方がいちばんの基本なのかもしれません。

▼図06
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また、色鉛筆のような画材を使ったぼんやりした絵でも、使い方によって、
たとえば背景をはっきりとさせることによって、
輪郭が明らかになり、遠目がききやすくなります。

▼図07
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伝えたいかたちと、その背景を明確に分けることで、浮き立たせる。
輪郭線なしでも目立たせることができます。

輪郭線なしで、キャラと背景を明確に色分けする。
こうしたやり方としては、貼り絵の画法がぴったりです。
シンプルなかたちを、背景の違う色と組み合わせることで、
効果的に際立たせることが出来ます。

貼り絵の紙芝居といえば、高橋五山「ぶたのいつつご」(5)が代表的でしょうか。
他にも「ベニスズメトウグヒス」(6)など、
高橋五山は“貼り絵紙芝居”をいろいろ作っています。
また、貼り絵は、
瀬名恵子さん(作品に「おばけのてんぷら(7)」、紙芝居「おさじさん」(8)など)が
よく使われている画法ですね。

ちぎったり切り抜いたりした色紙や、作った折り紙をそのまま画面に貼り付けるなど、
子どもたちでも、制作に参加が出来やすい。
紙芝居を見ているうちに、子どもたち自身で作ってみたくなるかもしれません。

手作り紙芝居では、画面をぬくときに紙がこすれるため、
のりづけをしっかりしなければいけないものの、
しかし、遠目をきかせる絵には、貼り絵という技法がピッタリ。

高橋五山は、第二次大戦中、モノが不足して、
紙や画材も満足でなかった時代にこの「貼り絵」を考案したそうですが、
この画法は、本質的に紙芝居に適していると思われます。

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ちなみに、「遠目がきく」ということとは関係ありませんが、
絵本の絵の場合の輪郭線について、佐藤公代さんが調査されています(9)

この調査は、3~5歳の幼児たちが、
輪郭線のはっきりしている絵と、輪郭線のはっきりしていない絵のどちらが好きか、
どちらが理解しやすいか、などを調べたもの。
(形式的には紙芝居のかたちを用いて調べたそうです。)
それによると、全体的に子どもたちは輪郭線のある絵を好む。

ただ、年齢があがって4、5歳児になると、
輪郭線のはっきりしていない絵でも理解して思い出すことができる。
これは、ぼんやりしていてわかりにくいために、逆に「何なんだろう?」と興味をひいて、
思い出すことの出来る再生率や理解度を高めたのではないかといいます。

もっとも、おのおの個人の好みもあるでしょう。
また、物語と絵が合っているか、雰囲気や絵のよしあしなど、
いろいろな条件を見る必要もありそうです。

必ずしも輪郭線にこだわる必要はないのですが、
遠目とは関係ないとしても、
小さい子ども向けでは特に、輪郭線を描く絵が親しみやすいということは、
ある程度言えそうです。

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《引用・参考文献》
(1)寺村輝雄作、和歌山静子絵「あいうえおうさま」理論社
(2)和歌山静子作・絵「はいはいあーん」童心社
(3)森山京作・鈴木幸枝絵「すてきなバスケット」フレーベル館
(4)わしおとしこ作・鈴木幸枝絵「ペンギンのタウタウ」童心社
(5)高橋五山「ぶたのいつつご」童心社
(6)高橋五山「ベニスズメトウグヒス」全甲社(※1943年に制作された作品の復刻版。)
(7)せなけいこ「おばけのてんぷら」ポプラ社
(8)松谷みよ子作、瀬名恵子絵「おさじさん」童心社
(9)佐藤公代「絵本の挿絵の役割に関する研究、発達」近代文芸社
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